今から10年ほど前に当事務所で任意後見契約を結ばれたお客様がいらっしゃいます。
現在は自立型のサービス付き高齢者住宅にお住まいで、今年で98歳になられました。今でも大変お元気で、判断能力も良好に保たれています。以前は103歳の方の補助人をお引き受けしていましたが、その方がご逝去されたため、現在はこの98歳の方が当事務所でお引き受けしている最高齢のお客様となっています。
任意後見制度の特徴と活用におけるポイント
任意後見契約は、ご自身の判断能力が将来低下した際に備え、あらかじめ「誰に」「どのような支援をしてもらうか」をご本人の意思で決めておくことができる制度です。公正証書によって契約を締結します。
裁判所の選任によって決まる法定後見制度とは異なり、自分が信頼できる家族や専門家をあらかじめ後見人として指名できる点が大きな特徴です。
また、任意後見人が行う支援の内容や代理権の範囲は、「任意後見代理権目録」という書類で細かく設定されます。どのような条項を盛り込むかによって活動の柔軟性が大きく変わるため、一般的なひな形をそのまま使うのではなく、ご自身のライフプランや希望に合わせて専門家と丁寧に内容を組み立てることが大切です。身近なご家族に将来の財産管理や手続きを任せたいと考えている場合は、心身ともに十分な判断力がある元気なうちに検討を進めておくと安心です。
発効のタイミングと見守りの重要性
任意後見契約は、将来的に認知症などで判断能力が低下した段階で、家庭裁判所に「任意後見監督人」の選任を申し立てることで効力が発生します。そのため、判断能力が衰えないままお亡くなりになられた場合、契約が一度も発効しないまま終了することもあります。
当事務所のお客様も、現在はまだ判断能力に衰えは見られず、契約発効の予定はありません。しかし、任意後見は「契約を結んで終わり」ではなく、定期的な見守りが非常に重要です。判断力が低下するサインを見過ごしてしまうと、適切なタイミングで手続きへ移行できなくなる恐れがあるためです。
このお客様とは、面会だけでなく電話やメールも活用しながら、かれこれ10年以上にわたり定期的なコミュニケーションを続けています。最新型のスマートフォンを使いこなされていて、日々のやり取りからも気持ちの若さが伝わってきます。長年伴走してきた中で、年相応の変化はあるものの、現時点で生活上の大きな不安はありません。
任意後見契約から始まった終活
このお客様は身寄りがおられないため、万が一のときに備えて全財産を「遺贈寄付」する遺言書もすでに作成されました。また、亡くなった際の葬儀、供養などについてもきちんと検討され「死後事務委任契約書」も作成されています。
専門家としての本音を言えば、結んだ任意後見契約書が実際に発効することなく、穏やかな最期を迎えられることが一番の願いです。それでも、いざその時が訪れた際には、必要とされる役割をしっかりと果たせるよう、これからも日々の繋がりを大切にしていきたいと思っています。

