なぜ「土地持分の買い取り」ではなく「同意書」だったのか?実務と民法の考え方
前回の記事で、いわゆる「またぎ案件(他人地を跨がなければ公道に接しない土地)」について、隣地所有者様から「同意書」を取得して解決した事例をご紹介しました。
今回はその補足として、「なぜ売買(持分取得)ではなく、同意書という選択に至ったのか?」という、実務上の思考プロセスについてお話しします。
1. 初めに浮上した疑問:「持分を買い取る」という選択肢
ご相談を進める中で、このような疑問やご意見が出ました。
「同じ解決金を支払うのであれば、隣地の土地(一部または全部)を買い取ることはできないのか?」
確かに、隣地を丸ごと買い取ることができれば、通行・掘削・利用の権利関係は完全に解決します。しかし、土地全体の買取りとなれば多額の費用がかかるため、今回の資金計画では現実的ではありませんでした。
そこで次に浮上したのが、「解決金の範囲(10万円)で、隣地のごく一部の『共有持分』を購入し、共有者になる」というアイデアでした。
2. 民法249条:「持分があれば全体を使える」のか?
民法第249条には、次のように規定されています。
民法第249条(共有物の使用) 「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。」
この条文だけを読めば、「わずかでも持分を取得して共有者になれば、隣地全体を自由に通行・利用できるのではないか?」と思えます。いかにも耳障りの良いアイディアです。
しかし、実際の不動産実務、特に「建築確認や建築審査会の判断」というハードルの前では、この考え方だけでは不十分でした。
3. 建築審査会が求める水準は「排他的な通行・利用の保証」
持分を有していれば、隣地全体を制約なく通行、利用できると言う言い分は、ひょっとすると隣地が「公衆用道路」などの場合には成り立つかもしれませんが、そうではない本件では余りにも収まりが悪いと感じました。
最終的な方針を決めるため、改めて行政(建築指導課)へ足を運び、行政の考え方を尋ねました。
核心を掘り下げていくと、建築審査会が許可や審査の過程で厳しくチェックしているのは、単に「通行できること」ではなく、『隣地所有者から「排他的」な通行・利用に関する同意が得られているか否か』という点であることが判明しました。
ここでの「排他的」とは、「少なくとも通行や利用の様態や方法について、他者から制約、妨害など一切の干渉を受けない程度の強固な権利が保証されている状態」を指す様でした。
4. なぜ「持分購入」ではダメだったのか?(民法252条の壁)
ここで問題になるのが、共有物の「管理行為」に関するルールです。
民法第252条(共有物の管理) 「共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。」
道路や隣地の「通行方法」など「利用ルール」を定めることは、民法上の「管理行為」に該当します。
つまり、持分を買い取る形をとる場合、少なくとも過半数(50%超)の持分を取得しなければ、他の共有者から通行方法や利用手順に制限をかけられてしまうリスクが残ります。これでは、建築審査会が求める「排他的(干渉を受けない)に利用できる状態」を満たすことができません。
今回、ご相談者様にご負担いただける予算枠は10万円でした。この金額で隣地の過半数持分を購入することは、価格的に不可能だったのです。
5. 結論:権利の質とコストを見極めた「同意書」の選択
まとめると、今回の選択肢は以下の対比となります。
- 少額の持分取得(✕): 共有者にはなれるが、過半数に満たないため将来的に通行や利用方法に干渉されるリスクが残り、「排他的利用」が証明できない。
ただし、他人地が公衆用道路の扱いになっている場合などは、考えを異にする可能性もあり。 - 強固な内容の同意書(〇): 単なる通行承諾にとどまらず、「排他的な通行・利用、および上下水道・電気・ガスの引き込みに伴う掘削工事を承諾し、一切干渉しない」旨を明確にした書面を取得する。
この事案において最も重要だったのは、「建築審査会が要求する回答水準・審査基準」にぴったりと合わせた解決策を提示することでした。
行政の考え、民法の条文構造、そしてご依頼者のご予算。これらを総合的につなぎ合わせた結果、「排他的利用を担保した同意書」の取得がベストな解決策となったのです。
*実際に建て替え時の行う建築審査会への申請書などの提出行為は行政書士さんのお仕事であり、司法書士の職務範囲外です。

