相続放棄を提案することも
司法書士として成年後見人を務めていた方がお亡くなりになった際、実務の最終段階として「財産の引継ぎ」を行います。原則として、相続人調査を経て残された財産と債務を引き渡すことで、成年後見人としての業務は完全に終了します。
しかし、この引き渡しの前後において、相続人の方から様々なご相談を受けることは少なくありません。成年後見事務の終了プロセスの中で「相続放棄」をご提案するケースもあります。
1. 成年後見事務の終了と相続人への引き継ぎ
被後見人がお亡くなりになると、成年後見人は以下の事務を行い、業務を結結します。
- 相続人の調査・確定: 戸籍等を収集し、法定相続人を特定します。
- 財産目録の作成と報告: 終時点での財産状況をまとめ、家庭裁判所へ報告します。
- 財産の引き渡し: 確定した相続人へ、残余財産や関係書類を引き継ぎます。
この引き渡しをもって成年後見人の基本業務は終了しますが、相続人の方々からは相続手続き全般に関するご相談へと繋がることも多く、必要に応じて新たな法的サポートとして有償で対応していくことがあります。
2. 相続放棄をご提案する主なケース
「負債がない場合」や「負債があっても明らかにプラスの財産が多い場合」は、そのまま相続を選択されるケースがほとんどです。しかし、司法書士として、これまでの実務経験から次のような状況では「相続放棄」をご選択肢の一つとしてご提案することがあります。
① プラスの財産よりマイナスの財産(債務)が多い場合
基本的には借金などの債務超過が主な理由となります。理屈の上では当然の判断ですが、実務では「故人に目立った借金がなくても、精神的な負担から相続を放棄された方」がいらっしゃるなど、理屈だけでは割り切れない事情が存在することもあるようです。
② 不動産の処分に懸念がある場合(「負動産」の存在)
最近では、利用価値のない山林や管理が難しい空き家など、いわゆる「負動産」の存在が相続放棄を検討する大きなきっかけになるケースもあります。 山林や空き家がある場合、相続放棄の前に負動産を専門に扱う不動産業者への相談を検討するのも有効な手段の一つです。実際に私のお客様の中でも、私が交渉の窓口になって原野のような土地を相続して専門の不動産会社に引き取っていただいた事例があります。(相続不動産の売却サポート)
③ 故人の債務全容が把握できない場合
成年後見人に就任してからの期間が短く、ご本人の過去の生活歴や収支状況を十分に把握しきれないままご逝去されるケースもあります。例えば、資産や収入に比して不相応な請求書が複数見つかったものの、全容が分からないままお亡くなりになったような場合です。 このような状況では、成年後見人としてのこれまでの経緯や懸念点を誠実にご説明し、相続放棄も選択肢の一つとして情報提供を行います。もちろん、最終的な判断は相続人の方の自己決定を尊重いたします。
3. 相続放棄における注意点と期限
相続放棄には法的な期限と手続きが定められています。(参考:裁判所ホームページ「相続放棄の申述」より)
- 申述期限: 原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内
- 管轄裁判所: 「被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」へ書面で申し立て
もし何らかの事情で3か月の期間が経過している場合でも、状況によってはまだ申し立ての余地が残されているケースもあります。お困りの際は、お近くの弁護士や司法書士などの法律手続きの専門家にご相談されることをお勧めします。(大阪市にお住まいの方なら当事務所でもご相談に対応します。)
今回の担当案件を振り返って
この事案では、亡くなられたご本人の生前の生活歴から一定の債務があることが判明していました。その対応にあたっている最中にご逝去されたという経緯があり、成年後見人としての業務終了にあたり、その事情を相続人の方へ丁寧にご説明したうえで相続放棄についての情報提供とご提案を行いました。
成年後見事務はご本人のご逝去で終わりを迎えますが、残されたご家族にとってはそこから新たな相続手続きが始まります。今後も、現場の状況に応じた適切な法的サポートと情報提供をして行きたいと考えています。

