当事務所で以前に遺言書の作成をお手伝いした方からご連絡がありました。以前に作成した遺言内容を変更したいとのことです。
遺言書は一度作成した後も何度でも作り直すことができ、常に最新の日付で作成された遺言書が優先して有効になります。
心境の変化と、よりバランスの取れた変更へ
以前に遺言書を作成した当時は、ご相談者と家族の間に少しわだかまりがあり、それが遺言内容にも反映されていました。「これが現在の自分の気持ちだから」と割り切りつつも、どこか複雑な気持ちを抱えていらっしゃったのを覚えています。
今回、変更の内容をお聞きすると、少し時間が経ってご家族とのわだかまりも解消されたご様子でした。以前にお手伝いしたときよりも、全体的にバランスの良い内容へと変更をご希望されていました。
「お元気なうちに遺言の変更を実現したほうが良い事案だ」と感じ、すぐにお引き受けすることになりました。
私たち司法書士が「遺言者の意思」を第一に考える理由
本来、私たち司法書士は、遺言の内容そのものにあれこれと意見する立場にはありません。まずは遺言者ご本人の意思が第一に反映されることを最優先に、遺言書の作成をサポートします。
よく「税理士さんや信託銀行が関与した遺言書は、財産を受け取る人の税金が最も安くなるよう、あるいは相続が開始した後スムーズに進むようによく検討されている」と言われます。これは大切な事だと思います。
もちろん、財産を渡す側(遺言者)と受け取る側(相続人)の考えや利害が一致しているに越したことはありません。しかし、「相続人から見たよい遺言」と「遺言者から見たよい遺言」が、必ずしも同じとは限らないのが実情です。
信託銀行や税理士と、私たち司法書士・弁護士の「立場の違い」
司法書士や弁護士が遺言書作成に関わる場合、依頼者(=財産を渡す側・遺言者)に対する誠実義務・忠実義務があります。そのため、アプローチの仕方に税理士や信託銀行とは少し違いが生じることがあります。
たとえば、信託銀行などでは以下のようなルールを聞くことがあります。
- 「遺留分を侵害する内容の遺言は基本的に作成しない」
- 「法定相続人全員に、あらかじめ連絡を取らなければならない」
- 「遺言内容について、事前に相続人全員の理解を得られなければ作成しない」
一方、司法書士や弁護士であれば、遺留分を侵害することで将来争いが生じるリスクについては十分にご説明・ご忠告をいたします。そのうえで、「それでも遺言者がその内容を望むのであれば」遺言書の作成を支援します。
遺言者にはそれぞれの複雑な事情があり、それを抱えたうえで最後の意思を形にしようとしています。その最後の意思を叶えるお手伝いをすることこそが、私たち法律専門職が遺言書作成を支援する大きな意義だと考えています。
自分は:どこに相談すべきか?
もちろん、私たちも紛争予防のために「できるだけバランスの取れた遺言書にしていただきたい」と願っていますし、そのようなご提案もしっかりさせていただきます。
ただ、最後の最後に「遺言者の立場に立つか」「相続人同士のバランスを重視する立場に立つか」となったとき、私たち司法書士や弁護士は「遺言者の立場(意思)」を最優先に選びます。一方で、信託銀行などは「相続人全体のバランス」を重視する傾向があるのでしょう。たとえば、相続人として遺留分を有する子供がいる方が財産の全額を寄付するような遺言書や似たような趣旨の遺言書を作成したい場合は、信託銀行さんではお願いしにくい内容になるでしょう。
どちらが良い・悪いという話ではありません。ご相談者がご自身の価値観やそれぞれの事情に合わせて、納得できる相談先を選択されることが一番大切です。

