いま、お子様がおられないご夫婦からの遺言書のご相談を複数お受けしています。 私たちの事務所で遺言書の作成をお手伝いする場合、基本的には「公正証書」での作成を前提にご相談を進めています。
自分で書いた遺言書を法務局に保管する制度もできましたが、全文を自筆で記載しなければならないことや、定められたフォーマット・枠内に文字を収める必要があるなど、想像以上に手間がかかります。そのため、「すべての財産を妻に相続させる」といった極めてシンプルな内容でなければ、個人的にはあまりお勧めしていません。
実は、私自身もすでに遺言書を作成しています。具体的な内容についてはここでは控えますが、お子様がおられないご夫婦であれば、ぜひ早い段階で遺言書を作成しておくことを強くお勧めします。
子どものいない相続が抱えるリスク
司法書士としての経験上、お子様がおらず「配偶者」と「ご親族(兄弟姉妹など)」が法定相続人となる相続では、遺言書がない場合、残された配偶者が手続きを進める上で大きなご負担を抱えるケースが少なくありません。あらかじめそのリスクを想定し、対策を講じておくことが大切だと思います。
「公証役場への訪問」することの深い意味
公正証書で遺言書を作成する場合、原則として公証役場へ出向く必要があります。(出頭主義などと言います) もちろん、遺言される方がご高齢やご病気、お身体の不自由さなどの理由で公証役場まで訪問できない場合には、公証人に「出張」してもらい、ご自宅や病院、老人ホーム等で作成してもらうことも可能です。
司法書士として経験が浅かった頃は、「ご依頼者の負担を減らしてあげたい」という思いから、安易に出張作成をお願いしてしまうことがありました。
しかし、私を可愛がってくださったある公証人の先生から、「役場まで出頭することの重要な意味と意義」をご教授いただいてから、私の考え方は大きく変わりました。今では、ご依頼者には「できる限り頑張って役場へ行きましょう」とお伝えしています。
出頭主義が守る「本人の真意」
一見すると、公証人に出張してもらう方がご依頼者の負担は少ないように思えます。しかし、病院やご自宅、老人ホーム等で作成された遺言は、誰かの強い影響や誘導によって作成されたり、判断能力が不十分な状況を見過ごして作成されてしまうリスクを完全には排除できません。つまり、「ご本人の真意に反した遺言が作成されてしまう危険性」がゼロではないのです。これは大変危険なことで、遺言の有効性が争われる原因にもなります。
遺言される方がご自身の足で公証役場まで訪問するということは、「自分の意志で遺言書を作成したい」という自由で強い意思を、「出頭する」という行動そのもので表現していることに他なりません。
仮に、誰かに無理やり公証役場へ連れて行かれそうになったとしても、自宅から出なければよいですし、道中で助けを求めたり、警察に駆け込むなどして干渉を回避する方法はいくらでもあります。それらを乗り越えて公証役場に足を運び、遺言書を作成するということは、その公正証書が脅迫や誘導ではなく、紛れもないご本人の意思によるものであるという有力な証明になります。
検察官ご出身であるその公証人の先生からこの助言をいただいたとき、私は「出頭主義」の意味を改めて認識し、自分の思慮の浅さを恥じたのを覚えています。
当時大変お世話になったその先生は、現在は公証人を引退され、弁護士としてご活躍しておられると聞いています。その先生から教わった遺言作成における姿勢は、今でも私の司法書士としての執務指針となっています。

