私の事務所と古くからお付き合いのある、国税局出身の税理士さんとの雑談の中で、ハッとさせられる気付きがありました。それは、「相続税の納税義務がなくても、あえてゼロ円の申告手続きを行うという選択肢がある」ということです。
税理士さんのお話によると、例えば普段の収入がそれほど多くない方が、相続した財産を元手に不動産を購入した場合、税務署から「その購入資金はどこから?」と疑問を持たれることがあるそうです。 もちろん、正当に相続したお金であれば何の問題もありませんが、税務署から突然「お尋ね」の書類が届いたり、最悪の場合は税務調査が入ったりするのは、決して嬉しいものではありません。
そこで、基礎控除の範囲内であり申告義務がなかったとしても、あらかじめ「相続でこの財産を得た」と申告しておくことで、資金の出所が公的にクリアになり、その後の資産を堂々と使えるというメリットがあるというのです。
この話を聞くと実に説得力があり、「相続税の申告義務があるかどうか」という表面的な視点だけで判断してしまいがちですが、実務の現場を知るプロの視点には深い学びがあると、改めて思い知らされました。
専門家に求められる「センス」
私たち司法書士も、法律の専門家として日々相続手続きに携わっています。 紛争のない事案での遺産分割協議の調整、協議成立後の不動産の名義変更や口座解約など、成立した内容を実現へと導く法律事務は日常的な業務です。
弁護士さんが扱うような法的な紛争に至っていない分、司法書士が扱う事案はいずれの相続人にも公平で中立である必要があります。ただ、相続人どうしの関係性が希薄であることもよくあり、相続における人の感情は、ちょっとしたことで簡単にもつれてしまうものだと考えています。そのため、相続人どうしの意見を丁寧にすり合わせるには、かなりの神経を使っています。 「あの司法書士が関わったせいで、かえっておかしくなってしまった」と言われる事態は、絶対に避けなければなりません。
法律面で中立的な最適解を導くことは大前提ですが、それだけでなく、事案の関係者全体を見渡し「どのような方法と順番でアプローチをすれば、円満な関係性を維持できるか」を感じ取る、ある種の「センス(感性)」も不可欠です。送付する書面などは表現や内容を含めて相当に気を使っています。
今回の税理士さんとの会話を通じても、やはり「その分野の専門家でなければ分からない視点や答え、そして感性があるのだ」と強く実感させられた出来事でした。

